|
大林宣彦
大林監督の作品を観るそのたびに、胸がキュンと熱くなってしまいます。
美しいのだけどこか懐かしい風景に代表される映像、音楽登場人物たちの真摯な表情・・ ちょっぴり青臭くて思わずこちらが照れてしまいそうな監督の表現は、大人になっていつのまにか染みついてきた心のよけいなものをはぎ取ってくれそう。
オーバーな言い方かもしれませんが、彼の作品を観ることは私にとって心の大掃除をすることに等しいのです。これから少しづつ彼の作品とその感想をアップしていきたいと思います。
●時をかける少女(1983年)
私の大好きな大林監督の映画。最初観た時はSFのようなノリで見ていた私ですが、この映画が恋愛映画であること、そのことが伝わった時、よけいに好きになりました。はじめての恋は胸が苦しくて・・原田知世演じる少女がはじめての恋に戸惑うその様子がよかったのです。
まるで魔術のような大林監督の美しく幻想的な映像がたくさん楽しめるこの映画は、尾道三部作のひとつ。家々がひしめくように並び、細い坂道を主人公たちが笑いながら駆け抜けるシーンが印象に残っています。1990年以降の彼の作品の多くが見終わった後でなにか心に重く残るのに対して、この作品のように懐かしさとともに心に温かいものが残り、思わずニコッとしてしまう、そんな作品たちが好き。二度と帰ってこない、今この時を駆けぬけるヒロインたちのひたむきさがきっとこの映画のいのち・・・
主演の原田知世のちょっとたどたどしいのだけど飛び跳ねるような初々しい演技と、爽やかな笑顔が印象に残っています。
●ふたり(1992年)
正直言ってあまり期待しないで観た映画なのですが、観ているうちにどんどんこの映画の世界に引きこまれていってしまう、そんな映画。透明感のある映像は美しい音楽をともなって現代版のおとぎ話のようでウットリと観ていた私ですが、ストーリーが進んでいくうちに、主人公の少女がいろんなことに立ち向かって強く生きている様子にとても感動してしまったのです。ひとりの少女の成長は、同時に光り輝いているその時が二度と帰ってこないという現実。家族との幸せだけど何気ないひとこまが、それがいつか変化して永遠ではないこと・・それが映画が進んでいくうちに心に響いてきて、私の心を懐かしいようなさみしい思いでいっぱいにさせます。
なんでも器用にこなす、優等生の姉が幼い頃から羨ましくてしかたがなかった石田ひかり演じる妹ですが、姉が不慮の事故で死んでしまって自分が現実に立ち向かわざるえない立場になった時、その時にはじめて姉の苦労が分かる、そんな場面がとても印象に残っています。
大人の階段をひとつひとつ登るたびにどんどんと賢く強くなっていく少女ですが、そのたびに目には見えないキラキラしたものがひとつずつなくなっていってしまう・・ それが分かるから、この映画を観ながらこんなにも切なくなってしまうのでしょうか。
●はるか、ノスタルジィ(1994年)
題名のとおりノスタルジィあふれる作品は、167分という大作。小樽が舞台になっているこの映画、勝野 洋演じる中年男が石田ひかり演じるひとりの少女と出会うことで、かつて心の奥に押し込めていた過去の自分に光を当てていく、そんなストーリー。あまい回想シーンを想像していた私はこの主人公の男性のあまりにもの壮絶な青春時代の過去に驚いてしまい、このような辛い過去でもそれに光を当てていかなければならない、そのことにショックを受けてしまったのです。忘れてしまいたいほどのイヤな過去でも自分はたしかにそのその時代を生きてきたこと、それを受けとめてしっかりと見つめ直すことの大切さ、そこから新しい自分がスタートする・・・ このことが映画のテーマになっているように感じました。大林監督の作品に流れている甘ったるいほどのやさしさ・・それがこの映画では奥に潜んで現実としての厳しさを感じてしまった私です。
懐かしさを感じるどこかひなびた美しさのある風景、きれいな音楽、少女のあやういような可憐さ・・ それらが透明感をもってこちらに伝わってきます。せつなさと哀しさの紙一重のところにある美しさが感じられる映画。
主人公の男性の気持ちを”語り”にしてたくさん流していたことが、この映画に説明をたくさんつけてしまっていて、そのことが少し残念に思いました。
|